歴史
色彩豊かで精緻な模様を特徴とするのが友禅染です。技法の違いから、手描き友禅と型友禅の二つに大別され、現在、熊谷の友禅というと手書き友禅を指します。
友禅の起こりは、17世紀の江戸時代前期に遡りますが、熊谷で手書き友禅が始まったのは、大正時代に入ってからになります。模様師と呼ばれた内田広吉によって始められ、その弟子の内田孝三が受け継ぎ、昭和7年に独立して店を構えています。その後、この系譜は途絶えてしまいますが、昭和30年代には、高崎市や桐生市で染色業に携わっていた者が熊谷に進出し仕事を営むようになりました。
そのころの熊谷の染色は、小紋や型友禅が主流でしたが、その小紋や型友禅をより華美にみせるための技法として、着尺の上に金銀や白の線を描きいれることが流行していました。特殊な技術を必要とするこの技法を行える職人は、当時の熊谷にはいなかったことから、新規開拓の意味で熊谷に進出してきたものと推測されています。
製作工程
手描き友禅の製作工程は非常に複雑で、着物や帯などその作品にふさわしい意匠を考えることに始まり、数々の工程を経て、ようやく一つの作品が完成します。数日で終わるものもありますが、着物では1〜2か月かかるものも少なくなく、時には1年をかけて完成するものもあります。
@下図写し:紙に描いた下図を生地に写していきます。下図の紙の上に生地を置き、下からライトを当てて透かし、青花(露草の花のしぼり汁)で丁寧に写し取ります。友禅模様のもとになる作業なので、非常に細かく、気の抜けない作業です。
A糸目糊置き:生地に描いた下図に沿って、糸目糊を置いていきます。糸目糊を置くことで、内側の彩色が地色の部分ににじまないようになります。模様の色をきちんと描くための重要な作業で、手描き友禅中でも熟練を要する作業です。
B地入れ:染料のにじみを防ぎ、発色を良くさせるため、豆汁を生地に塗ります。豆汁とは、水に浸した大豆を引きつぶして、水で伸ばした物です。生地の両端を張って、大きなハケで生地全体に塗っていきます。
C友禅挿し(彩色):柄に必要な染料を選んで調合し、友禅挿しを行います。自分の作業にあった彩色筆を用いて、糸目糊を置いた柄に色を挿していきます。ボカシなどの技法も、この彩色の段階で行います。この彩色によって、手描き友禅の鮮やかな柄ができていきます。
D糊伏せ:友禅挿しで彩色した柄に糊を置いて模様を覆い隠します。この糊を「伏せ糊」といいます。糊はもち粉と米ぬかと塩を混ぜて作ります。この作業で、地色を染める時に柄に色が入り込まなくなります。鮮やかな柄を保つための重要な作業です。
E地染め:糊伏せした生地の地色を染めていきます。柄には糊が伏せてあるので、大きなハケに染料をつけて生地全体にムラなく地色を染めていきます。「糸目糊置き」「友禅挿し」とともに手描き友禅の基本的な技術です。
F蒸し:染料を生地に定着させるために行う作業です。生地全体にオガクズまたはイリヌカを撒き、生地どうしが着かないようして棒に吊るし、蒸気の対流を考えながら蒸し箱に入れ、蒸し上げます。
G水洗い・脱水:蒸しあがった生地を蒸し箱から取り出し、水洗いをします。ここで糸目糊や伏せ糊、オガクズなどを落とします。昔はきれいな川で行う「友禅流し」が有名でした。洗った後は、脱水・乾燥させ、湯のしをして仕上げます。