第34話「片尻山」ーかたじりやまー |
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「片尻山」とは、小江川地区にある地名です。比企丘陵の北緑部に位置している丘陵地の一画で、現在は山林で覆われています。地質的には、凝灰岩の岩山となっており、ところどころに白色の岩肌が露出しています。この地形・地質の特徴が地名に関係していると思われます。
白色の凝灰岩は、第三紀層といわれる今から千六百万年前の火山活動により堆積した火山灰で、当時海だった関東地方に厚く堆積し、現在の荒川の河床では三百メートル以上の厚さを見ることができます。地質的には比較的新しい岩石であるため、固結度が低くあまり固くありません。そのため風化の進み方は早いのですが、切り出すのが容易なことから古墳時代から石材として利用されてきました。
横穴式石室を持つ古墳は、旧江南町を始め、旧大里町・滑川町・嵐山町・東松山市・吉見町などに千基以上あり、これらほとんどの古墳に用いられていることが発掘調査から推定されます。中には畳二枚程もある巨石を用いていた古墳も知られています。
大量の石材は、露頭の見られる比企丘陵の北緑から東縁部の地域で採堀されたようです。特に熊谷市小江川と滑川町福田では古い時代の採掘遺跡が点在し、近代でも採掘されていることを考えると採掘の中心であったとも思われます。
明治末年に編纂された「小原地誌」には、「小江川石」 について次のように記しています。
「小江川石は水火によく耐え、井戸側・釜石 (カマドの用材)・敷石 (礎石・根石) に広く使用されている。」
このように、古代から現代まで採掘が続けられていたとすると、採掘地には大穴が開くか、山が削りとられるなど目立った地形の変化が見られたと思われます。事実、地名の場所では石材を切り出した跡がはっきり残っており、山の東側が断崖となっています。
地名の 「片」は台地・丘陵の側面・斜面、つまり「肩」を意味します。また、元々一を分割した片方というように、見た目でわかる状態を意味することもあります。「尻」は「後」と同義で後方・末端・裾等の他に、動物の体の一部分をいます。このお尻には左右の山けが二つ揃って完全な形をなしています。昔から物の形を人の姿に見立て呼ぶ場合があったことを考えると、片方が欠けていたり、片側が非対称にみえるものは 「片尻」といわれても不思議ではないようです。
「片尻山」の地名は、先に記した地形の特徴と名付けられた言葉の意味が良く一致していますから、石切場のあったことが地名の由来として良いようです。おそらく、山の形が変わるほど大規模に採掘が行われた近世以降に定着した地名であろうと思われます。
片尻山遠景
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