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コラム5 (その2)  [登録:2001年10月09日/再掲:2012年08月21日]


                       

 コラム1 が、主にの効能について紹介したので、今回は、が、物語の中でどのように認識され、記述されてきたかを紹介します。キーワードは、西王母です。

漢武故事』14−17(前野:1968)ー中国後漢代班田(32〜921)著と伝わる。
 天界から降りた西王母に、漢の武帝が不死の薬を請います。西王母は「帝は欲心が多いゆえ、不死の薬はまだ得られぬ」と断ります。そして、七つののうち二つを食べ、五つを武帝に与えて、去ります。その後、西王母は、武帝に使者を遣わし、三つのを武帝に渡し、「食せば人寿の極限まで生きられる」と教えます。しかし、実際には武帝は六十余歳で死んでしまいます。

山海経(せんがいきょう)』(高馬:1994)ー中国漢代の地理・博物書 著者不詳。
 「東海の中に度塑山(どさくさん)がある。頂に大きながあって、三千里に渡って枝が渦を巻くように曲がりくねって生えており、その卑しい枝がつくる東北の門を門といい多くのが出入りする。頂には二人の神がいて、一人を神茶(じんと)、もう一人を鬱壘(うつるい)といい、悪を調べ、取り締まる役目を負っている。害をもたらす者を葦の縄で縛り虎に食わせる。」という話がある。
 この故事をもとに、帝は、で作った神茶の人形を、自分の居城の北東の門戸の上に置き、門に葦の縄を持つ鬱壘を描いて凶悪のを防ぎ、虎を描いて凶悪のを食わせた。

風俗通義』ー中国後漢代の伝奇書。應劭(〜204)著 
 桃の木の下で兄弟がトラを使いを退治した。

神農本草経』ー中国最古の薬学事典。中国後漢代陶弘景(452〜536)編。
 の種子(核仁)は、お血や膿(うみ)を取り去り、百を殺す。

花源記』ー晋代の散文集。陶淵明(365〜427)著。
 4世紀ごろ、中国湖南の武陵というところに住んでいた漁師が、道に迷って林の奥にある人里に迷い込む。そこでは、過去の戦乱を逃れた民の末裔が暮らしていた。漁師は歓待されて家に帰る。その後、漁師は再びそこへ行こうとするが、二度と見つけることはできなかった。(源郷の語源)

酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』巻2−68(今村:1980)ー中国唐代(9世紀)段成式著
 僧が山寺を訪問し、昼食を求めます。すると、一人の沙弥がの木から実を二つ摘んで与え、「長く逗留しているからもう帰りなさい」と言います。僧が自分の寺へ戻ると、弟子が「二年間お帰りにならなかった」と言います。僧は、二つのが二年間のしるしであったことを悟ります。

太平広記』巻325(宋:1975)ー中国唐代の伝奇小説。作者不明。
 夏侯文規は、死後一年して家に現れ、庭のの木を見て、「私が植えた樹で、実は美味だ」と言います。これを聞いた妻が、「亡者はを畏れると聞くが」と不信に思うと、夏侯文規は「の東西の枝が2尺八寸にも伸びて日に向かうのは嫌だが、畏れない場合もある」と答えます。

聊斎志異(りょうさいしい)』巻8−300「妻」(柴田:1969)ー中国明代の怪奇集。蒲松齢(1640〜1715)著
 聶鵬雲(じょうほううん)は、先妻の病死後、しばらくして後妻を娶(めと)りますが、夜ごとに先妻の亡霊が現れ、「私の寝台に寝かせるものか」と罵(ののし)って後妻を殴ります。困り果てた聶の依頼で、術者がの木を削って杙(くい)を作り、先妻の墓の四隅に打ち込むと、ようやく怪異は起こらなくなります。

西遊記』(伊藤:1955) 中国明代の作家呉承恩(1500〜1582)による物語 
 仕事もなくふらふらしていた悟空は、玉帝より西王母(せいおうぼ)の所有する(ばんとうえん)の管理人に任命されます。このには、三千六百本のの木があり、手前の千二百本は、三千年に一度熟し、これを食べたものは仙人になれ、中ほどの千二百本は、六千年に一度熟し、これを食べたものは、長生不老が得られ、奥の千二百本は、九千年に一度熟し、これを食べたものは天地のあらんかぎり生きながらえるとされていました。
 西王母の誕生日を祝う会を(ばんとうえ)と言い、このを皆で食する慣わしとなっていましたが、悟空は、このに用意された、一番奥のを食べてしまう。

日本書紀』巻1・第5段ー書第9(坂本:1967)ー日本最古の国史。720年完成。
 イザナギがイザナミを追って異界とされる泉へ迎えに行きます。しかし、約束を破りイザナミの朽ち果てた姿を見てしまい、逃げ出してしまう。怒ったイザナミは、夫を捕まえようと雷神達に命じ、追いかけ始める。イザナギは、野ブドウの実、笹を投げたが効き目は無く、最後に比良坂で、三個のの実を投げつけ、その追撃をかわします。

沙石集(しゃせきしゅう)』巻7−22(渡邊:1966)ー13世紀の説話文学。無住(1226〜1312)著。
 十二月晦日の夜、円浄房が呪をとなえ、の枝で家中を打ちながら「貧窮殿出ておわせ」と言って、貧乏神を追い出す。その夜の夢に、やせ細った僧が別れを告げ、以後、円浄房は豊かに暮らした。

太郎』ー日本の伝説
 川上から流れてきたを婆が拾うと、中から男の子が生まれる。太郎と名づけられたその子は、成長すると黍団子(きびだんご)をもらって退治に出かける。途中、犬・猿・雉に黍団子を与え仲間にし、が島のを退治し、宝を持ち帰る。

杜子春』(芥川:1985)ー日本近代小説 芥川龍之介著。
 唐の都長安の西の門に立つ杜子春に蛾眉山の仙人鉄冠子が現れる。杜子春が弟子入りを懇願すると、鉄冠子は「わしはこれから天上に行って、西王母にお目にかかってくる。その間どんなことがあっても声を出してはいけない」と言います。しかし、閻魔大王が死んだ父母を痛めつけると思わず声を出してしまいます。仙人にはなれなかった杜子春ですが、鉄冠子は杜子春に「お前に終南山の南の麓にある家をあげよう。の花が咲いている」と言って立ち去ります。

太郎侍』ー某民放で1976年〜1981年にかけて放送されたテレビ番組。全本数256本。原作山手樹一郎。脚本長坂秀佳 他
 十一代将軍家斉のご落胤で双子の弟である松平鶴次郎は、乳母の死を契機に今戸の屋敷を飛び出し、浪人暮らしを始めた。浪人となった鶴次郎は、「太郎」と名乗り、この世の(悪人)を退治していく。「一つ、人の生き血をすすり。二つ、不埒な悪行三昧。三つ、醜い浮世のを、退治してくれよう、太郎」とは、悪人を斬る時の太郎侍の台詞(第26話から登場)。


<参考引用文献>
 芥川龍之介 1987 「芥川龍之介全集」4 ちくま文庫
 伊藤貴麿 編訳 1955 「西遊記」上・中・下 呉承恩 作  岩波少年文庫
 今村与志雄 訳注 1980 「酉陽雑俎」1〜5 平凡社東洋文庫
 坂本太郎 他 校注 1967 「日本書紀」上下 日本文学大系67 68 岩波書店
 柴田天馬 訳 1969 「聊斎志異」全4巻 蒲松齢 作 角川文庫
 宋・李ム等編 1975 「太平広記」 古新書局
 高馬三良 訳 1994 「山海経」 平凡社
 前野直彬 編訳 1968 「六朝・唐・宋小説選」中国古典文学大系24 平凡社
 渡邊網也 他 校注 1966 「沙石集」日本古典文学大系85 岩波書店
 
 脚本家長坂秀佳氏ファンのためのホームページ(太郎侍)             http://www.tcp-ip.or.jp/~goshii/nagasaka.html
 物語要素事典 http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~kamiyama/
 私立PDD図書館(杜子春) http://www.cnet-ta.ne.jp/p/pddlib/
 珍獣の館(海山経) http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Icho/2648/index.html