覚書25 火おこし | [登録:2003年5月14日/再掲平成24年12月17日] |
先日、小学6年生の「総合的な学習の時間」で、遺跡の発掘調査の話や、縄文時代の話を2時間程してほしいとの依頼があり、お話をさせていただきました。
2時間もただ話すだけでは飽きられてしまうので、OHPシート(著作権フリーのサイトから画像イラストをコピーしプリント:ex.玉川学園教材ライブラリー)やパネルでイラストや写真を用意し、実際に縄文土器や石器に触ってもらおうと、実物資料を用意しました。また、縄文人を体験してもらうということで、縄を撚ってもらったり(紙紐で代用)、火起こしを実際にやってもらいました。
という事で、今回は、その「火おこし」についてのお話です。
縄文人はどうやって火をおこしたのか、子供たちがどんなふうに理解しているのか興味があったので、事前に、公益財団法人 群馬県埋蔵文化財調査事業団がweb上で公開している「火おこしワークシート」を参考にしたシートを渡し、課題として自分が思う縄文人の火おこしの絵を描いてもらいました。
その結果、64名中最も多かった回答が、キリ揉法で37名、次いで舞ギリ法が12名、以下、火打石8名、紐ギリ法1名、弓ギリ法1名、その他5名となりました。個人的には、ドラえもんがタイムマシンで現れ、ポケットからチャッカマンを出すという発想が好きですが、正解は、一番回答の多かったキリ揉法とされています。
以下、簡単に各方法を解説すると、
キリ揉法ー下図C〜I参照:クロマニヨン人(約4万年前にヨーロッパに現れた新人)の時代に発明された、人類史上最も古い発火法。日本でも、縄文・弥生時代を通じてこの方法が用いられたと考えられています。火きり棒(20cm程のまっすぐな棒)を火きり板(板の端にくぼみを付けた板)に押しつけながら手のひら全体を使って回転させる方法。北海道小樽市の忍路土場遺跡から縄文時代後期の火起こし道具のセット(火きり棒と推定される棒とヒキリ板)が出土しています(北海道埋蔵文化財センター 1989)。
紐ギリ法ー下図@参照:カンボジア、インドネシア、北欧に伝わる発火法。イヌイットやインドのバラモン教徒の発火法としても知られています。一人が、棒の上端をハンドピースと呼ばれる、くぼんだ木片(軸受)で押さえつけ、もう一人がひもを火きり棒に巻きつけ交互に引き、棒を回転させる方法。
弓ギリ法ー紐ギリ法を改良したもので、紀元前2500年頃のエジプトでも使われていたもので、もともとは、穴あけ用の道具だったようです。火きり棒に弓のひもをきつく2回巻き、弓を前後に動かし、棒を回転させる方法です。棒の上端をハンドピースで押さえつけ、摩擦を高めます。紐錐法の進化したもの。
舞ギリ法ー下図AB参照:火きり棒の下部に重りとしての回転板をつけ、紐をつけた横木を火きり棒に通し、横木の上下運動を紐を巻きつけることにより火きり棒の回転運動に換える方法。最も効率の良い発火具で、熟練するとわずか数秒で火種ができます。
かつて、登呂遺跡の発掘調査で、火きり板が出土し、別地点より舞錐の横木に似た形の木片が出土したことから、弥生時代には、舞ギリ法が使われていたとする説が一時期一般に広まりました。しかし、この別地点で出土した木片は、横木として使われていた確証は無く、現在では、舞ギリ法による発火法は、かなり新しいもので、江戸時代中期からとされています。
ちなみに、今でも、登呂遺跡脇の土産物店で、登呂遺跡出土の発火具として舞錐を販売しているとの噂もあります(未確認)。
伊勢神宮では江戸時代半ばより、神饌(しんせん:神に捧げる食事)の調理にこの発火方法できり出した火を使っています。ちなみに、それ以前はキリ揉法であったようです。
この舞ギリ、最近はやりの、古代体験イベントやマニア?向けの通販グッズなどで、古代の火起こしとして体験させたり、キットを貸し出したり、販売しているのを見かけますが、現在確認されている舞ギリ法の起源は、せいぜい江戸時代、つまり近世止まりです。子供が、面白がって簡単に火起こしができる点が利点ですが、その取り扱いや説明には注意が必要かと思います。
したがって、縄文時代では、キリ揉法が用いられたと考えられています。よく、「縄文人は火を起こすのも大変な苦労で、・・・・」と考えがちですが、この最も原始的で簡単なキリ揉法でさえ、現在のマサイ族やブッシュマン・南米のインディオたちは、20秒前後で火種をつくるそうです(関根:1998)。どうやら、常識化?していそうな、火起こしの大変さという考えは見当違いのようです。
したがって、調理施設にしては小さすぎることから、種火を保存したとされる、縄文時代の住居内の埋甕炉(まいようろ:屋内炉)は、火を起こすのが大変だから種火をとっておいたのではなく、火をとっておく事に別の意味があったと考えるのが妥当と考えられます。。
上前原遺跡第2次調査第2号住居跡埋甕炉 |
最後に、子供たちが描いた「縄文人の火おこし」の絵を紹介します。全部紹介したかったのですが、とりあえず代表例のみ。なかなかの力作で、小学生といえどあなどれません。ちょっと見づらいですが、クリックして拡大させてご覧ください。
@紐ギリ法 img000001 (76304 bytes) |
A舞ギリ法 img000002 (73413 bytes) |
B舞ギリ法・キリ揉法 img000003 (68442 bytes) |
Cキリ揉法 img000009 (86693 bytes) |
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Dキリ揉法 img000010 (41151 bytes) |
Eキリ揉法 img000004 (28184 bytes) |
Fキリ揉法 img000005 (47788 bytes) |
Gキリ揉法 img000006 (41373 bytes) |
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Hキリ揉法 img000007 (36548 bytes) |
Iキリ揉法 img000008 (62773 bytes) |
J火打石 img000013 (57373 bytes) |
K火打石 img000012 (22291 bytes) |
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L火打石 img000011 (35895 bytes) |
Mその他 img000015 (42916 bytes) |
N落雷 img000014 (27755 bytes) |
Oその他 img000017 (44446 bytes) |
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Pその他 img000016 (36230 bytes) |
<参考引用文献>
関根秀樹 1987年 『原始生活百科』 創和出版
関根秀樹 1998年 『縄文生活図鑑』 創和出版
小林達雄 2000年 『縄文人追跡』 日本経済新聞社
北海道埋蔵文化財センター 1989 『小樽市忍路土場遺跡・忍路5遺跡』北海道埋蔵文化財センター調査報告書53
玉川学園教材ライブラリー http://www.tamagawa.ac.jp/SISETU/kyouken/WebLibrary/index.html
玉川学園・玉川大学 「縄文人のくらし」http://www.tamagawa.ac.jp/SISETU/kyouken/jomon/
財団法人 ぐんま県埋蔵文化財調査事業団 「インターネット発掘情報館:古代人に学ぼう・まいぶん質問箱」http://www.gunmaibun.org/
発掘!いわての遺跡 「なに?なぜ?どうして?」 http://www.echna.ne.jp/~imaibun/index.html
南山大学 人類学額物館 「回転舞錐式火起こし」http://www.nanzan-u.ac.jp/MUSEUM/
Eternal Orbiters +α 「Dig Life:プライベートブックマーク:火起こし体験学習を考える」http://www.d1.dion.ne.jp/~orbit_gu/index.htm
北海道高校専門教育ネットワーク 「共同教研1998年:技術入門〜火おこしの道具と技術と技能と科学〜で始める技術の授業」http://www.geocities.co.jp/Technopolis/1104/
Arch.LABO 「やってみよう!考古学:火おこし体験と火おこし具づくり」http://homepage2.nifty.com/cy/
北海道立理科教育センター「理センキッズ:しらべてみよう:古代の発火法による火起こし」http://www.ricen.pref.hokkaido.jp/