第40話「うつぎ向」ーうつぎむかいー |
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江南地域には植物の名の付いた地名がいくつかありますが、今回はその植物地名を取り上げようと思います。それは小江川地内にある「うつぎ向」です。
地名の場所は、江南台地の南緑に位置し、主要地方道熊谷小川秩父線を挟んで広がっています。語尾に境界を意味する「向」がつくとおり、小江川と板井の大字境に向い合っています。このような境界の場所には、境界を示す標示として塚を築いたり、目印の木を植えたり、垣根を造ったりすることが多かったようです。「うつぎ」もそのような目的で植えられていたと考えて良いかもしれません。
では 「うつぎ」はどんな木で、昔はどんな印象を持たれていたのでしょうか。実は「うつぎ」と名の付く植物でユキノミタ科・バラ科・ドクウツギ料・フジウツギ科・ミツバウツギ科・スイカズラ科に5〜10種を含むほど数多くあります。これらの中で日本に良くみられるうつぎは、ユキノシタ科のウツギ属とスイカズラ科の谷ウツギ属で、いづれも低木で枝が垂れ、花は初夏に咲き、材は中心に髄があり中空になり、その材の状態=空木が名の由来とされます。
昔から「卯の花」の咲くうつぎとして親しまれたのは、ユキノシタ科のウツギです。旧暦の四月を卯月と呼ぶのは、卯の花の季節を意味しています。旧暦4月は現在の5〜6月にあたり、初夏の花、梅雨の花とも思われていたようです。
小学唱歌「夏は来ぬ」の「卯の花の匂う垣根に、時鳥早も来鳴きて、忍音もらす夏は来ぬ……」 に唄われる匂うは、白い花が美しく咲くさまを表現したものです。
7世紀に編さんされた万葉集にも二首の歌がみえ、いづれも「うつぎ」を生け垣に使う例のあることがわかります。「春されば卯の花ぐたしわが越し妹か垣間は荒れにけるかも(巻10−1899)」ー春が来て卯の花が長雨にいためられている。私がしのんで越えた恋人の垣根は荒れてしまった。というのが歌の大意です。
卯の花は、穂状の小さな花をたくさんつけます。各地の方言や民俗行事をみると、白い蕾は米粒を連想させ、その花は米の象徴と考えられていたようです。卯の花が長く咲く年は豊作、花が少ないまたは長雨で早く散る年は凶作のように咲き方で米の豊凶を占うのです。
稲作にとって梅雨は大切な季節です。雨量が少なくなくても、長雨続きで日照が少なくても秋の稔りには悪影響をおよぼします。暦のなかった時代、田植の時期の目安にするとともに、咲き具合からは天候と稲の育ち方を予測する花としてうつぎは重視されていました。
旧江南町内のそこここで、日に触れる深く豊かな由来を持つ卯の花を、あらためて見直してみてください。
参考文献 1993年 湯浅 浩史 『植物と行事ーその由来を推理する』 朝日選書
うつぎ向付近近景
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