むかし、熊谷宿のある商家に、だんなさんに死なれたばかりのおかみさんがおりまして、毎日、毎日とても悲しんでおりました。
ある夜のことです。おかみさんがかわやに入り、小用をしようとしていると、何やら自分のお尻を触るのです。
「おかしいな?」
と思っていると、次の夜も、また次の夜もそうなのです。
怒ったおかみさんはさらに次の夜、短刀で自分のお尻を触るものを切り落としてしまったのです。
大きな悲鳴とともにおかみさんの手に残ったものは、黒い毛むくじゃらの右腕でした。
よく日。おかみさんの店に黒い、不思議な老人がやって来て、おかみさんに会いたいと言うのです。
そこでおかみさんが会ってみると、右腕をかくしたその老人は、きのうこの家でめずらしい物を手に入れたそうだが、ぜひそれを私にゆずってほしいと言うのです。
目の前の老人の仕業だと思い当たったおかみさんは、今後あんないたずらはしないと約束させたうえで、腕を返してやりました。
すると老人は持って来た薬をぬって腕をくっつけると、あら不思議、その腕はなんともなかったように自由に動くのです。
それから老人は自分が河童であることを名乗り、おわびのしるしとしてその薬の作り方を教えました。
それが 「河童の妙薬」として広まり、飛ぶように売れて、おかみさんは大金持ちになり、幸せに暮らしたということです。
『熊谷市史』『ふるさとのはなし』より
|