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猿聟入り話(八木田)

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母が、「昔ね、こういう話があったんだよー」って、始まってね。
「それで、あのカズ(和子)ちゃんとミイ(美枝子)ちゃんみたいに女の子ばっかしのうちがあったんだよ」って。だけどお父さんじゃなかったんですね、お爺さんなんですよね。おんなじ女の子だけどね。お爺ちゃんと娘三人でいたんだって。
お爺ちゃんが、山の自分の畑に草を取りにね、いったら、草がいっぱいあってなかなかはかどらなかったんだって。それで、汗をふきふき一生懸命やっていたんだけども、
「誰か手伝ってくれないかなー。もし手伝ってくれた人には娘をお嫁にくれるんだけどなー」
ってゆい(言い)ながらお爺ちゃんが草を取ってたら、猿がね、どこで聞いていたんだか、猿がボンとお爺ちゃんの前に来て、
「じゃあ、おれが手伝うから」
って。そう言って猿が一生懸命やってくれてみるみる。えー、「畑はアワ(粟)のキ(茎)」って母は言ったんですけどね。で、たちまちきれいになって、
「どうもありがとう」
って、お爺ちゃんは帰ろうとしたら
「お爺ちゃん、娘を一人嫁にくれるって約束だから嫁にくれ」
ってゆったんで、お爺ちゃんもこれは困ったことゆっちゃったなー、うちに帰ってなんて娘にゆったら良いんだろう、おれもちょっとしたことでゆっちゃったけどって、お爺ちゃんもうんと心配しながらうちへ帰ったらしいんですよね。
そしたら、ご飯も食べないし、何も飲まないで、お爺ちゃんがこーして(うずくまって)るんで、娘三人が心配しちゃって
「お爺ちゃんどうしたの、どっか具合が悪いの」
っていったら、お爺ちゃんなっかなっか言わなかったんだけど、
「今日、草取りをしていたら、あのー、娘をくれるから誰か手伝ってくれないかなーって、おれは独り言をゆったんだけど、そこへ猿が来てくれて手伝ってくれて、それで娘を一人嫁にくれって言われたんだけども、手伝ってもらって、おれもそーゆーふ一に言った以上、誰か一人いってくれないか」
って、お爺ちゃんが言って、上の子とつぎの子は、
「ばかばかしー」
って。
「そんな。人間なのに猿のとこに嫁にいくなんてばかばかしー」
って、ゆったらしいんですよねー。そしたら、一番下の娘さんが、
「じゃあお爺ちゃん、私がゆくよ」
って。下の子は優しい子で、お爺ちゃんが可哀想で猿のところにお嫁にゆくことになったんだよって。そしたら、だから、お聟さんじゃなくてお嫁にいったんですよね。ムコさんにもらったんじゃないんだから。母はムコー、聟っていってたけど。
そいで、あのー、桜の花の咲く頃、初めてうちへ里帰りに来るっていうんで、お爺ちゃんがお餅が好きだってんで
「じゃあ、お餅をお土産に持っていこう」
ってお餅をついたんですって。そしたら、
「重箱に入れていこう」
ってお猿が言って、娘が
「重箱のにおいがしちゃうから」
って。それで餅を風呂敷に包んで猿がしょって (背負って) 山道を歩いてきたら、そしたら、池の端に桜がいっぱい咲いていて、娘さんが
「お爺ちゃん桜の花が好きだから、お爺ちゃんに土産に桜の花を取って行きたい」
っていったら、猿が
「そうか、そうか」
って桜を取ろうと重い餅を下ろそうとしたら、
「泥の臭いと草の臭いがするからそのまんましょって取って」
って娘さんが言ったんで、猿は
「そうか、そうか」
って餅をしょったまんま木にのぼったら、娘が
「もう少し上のがきれいな花だよ」
って言ったら、小さい枝まで行ったら、枝もとおっこってね、池ん中へ餅ごと入っちゃったんだって。それでお猿はお餅をしょったまんま、お猿は流れていったんだよって。
猿は流れて行っちゃって、娘は家に戻って来たって。
猿聟入り話