「ある初夏の夕方のことです。野良仕事から帰ってきたお百姓が、いっしょに働いてくれた馬を清水橋(佐谷田)の馬洗い場で洗っていると、とつぜんバタンという音がしました。お百姓がその方をふり返ってみると、一匹の河童が倒れていました。
すぐにお百姓は飛んでいって河童を抱き抱えましたが、河童は死んでこそいませんでしたが、骨と皮ばかりで、息も絶えだえという感じでした。
お百姓が、
『どうしたのかい?』
と聞くと、自分は荒川に住む河童だが、用事があって遠くの川に行き、それを済ませて帰りに道に迷ってしまい、何日も山の中をさまよい、ようやっと元来た道を見つけ、故郷目前のここまで来たけれど、十日も何も食べてなく、もう動けない、と弱々しい声で言うのです。
すっかりかわいそうになったお百姓は河童を家に連れて帰り、ご飯をたっぷり食べさせたあと、荒川に帰してやりました。
よく朝。お百姓の家の前に、河童からのお礼の手紙と一〇枚の皿が置いてありました。
その皿はすばらしく美しい皿で、河童からの手紙に、何か必要な物が無くて困った時に、その皿の上に必要な物を紙に書いて川岸に置けば必ず用意する、と書いてありました。そこで必要な物が無くて困った時にためしにそのとおりにしてみると、ちゃんと出してくれたのです。
こうしてお百姓は河童からもらった皿でなんでも貸してもらい、たいそう便利な生活をしていました。
ところが、あるとき何かのひょうしに皿を一枚割ってしまいました。するとそれからはいくら紙に書いても、出してくれなくなったということです。」
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