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コラム10 琥 珀   [登録:2002年2月4日/再掲:2012年09月03日]

                      

 2001年12月に独立行政法人 産業技術総合研究所 活断層・地震研究センターによって、市内野原地内において、断層のトレンチ調査が行われました(立会記録はこちら。その際、断層上盤側地表より約3m下の第三紀層(数千万年前)と推定される泥層より琥珀(こはく)が採取されました。
 琥珀といえば、日本では、岩手県久慈地域が唯一商業ベースに乗って採掘されていることで有名ですが、この他、北海道の石狩地方・福島県いわき市・千葉県銚子市・岐阜県瑞浪市など採取可能な場所は限られています。また、東京都八王子の北浅川でも良質ではありませんが採取できるそうです。
 この
琥珀が、製品化できる程良質のものではありませんが、まさか、熊谷市でも採取できるとは驚きでした。そこで、今回は、この琥珀について少し調べてみました。

  琥珀Amber)は俗名で、学名をSucciniteと呼び、コハク酸を含有しています。コハク酸を含有しない樹脂石(Kopal)は(Retinite)と呼ぶそうです。地質年代の新生代の第三紀の松柏科植物(松・杉・檜など)の樹脂が、地中で化石化したもので、透明ないし半透明で、樹脂光沢を帯びます。古くから、摩擦するとマイナスに帯電し、髪などを引き付ける性質が知られており、ギリシャ語の琥珀=エレクトロンは「電気」の語源になっています。
 琥珀は、その樹脂が固まる前に昆虫や苔・地衣類・松葉などを封じ込めることがあり珍重されます。そういえば、映画「ジュラシックパーク」では、この琥珀の中に閉じ込められた蚊の血液から恐竜のDNAを抜き出し、クローン技術で現代に蘇らせる というストーリーでした。
 硬度は2〜2.5で、耐久性は低いものの、美しさと希少性のため古くより宝石として愛好されてきました。比重は1.03〜1.10で、濃い塩水には浮かびます。
 
 ギリシャでは、
琥珀は「エレクトロン」と呼ばれ、接触するものを極性にするのに役立つとされていました。古代ギリシャの文献には「この美しい石は、その力の発生で地球の安定の鍵となっている」と記されています。
 イギリス・北欧では、結婚10年目に、Sweet ten Diamond(某ダイアモンド・シンジケート提唱)ならぬ
琥珀を贈る琥珀婚という習慣があります。
 ロシアや北欧では、母となった女性が、わが子を悪霊や病気から護るため、子供の幸福を願って
琥珀を身につける習慣が今も続いています。
 
 仏教では、七宝(金・銀・瑠璃(るり)・瑪瑙(めのう)・しゃこ・
琥珀・珊瑚)の一つとされています。

 日本では、現在管見に触れた最も古い琥珀製品は、千葉県四街道市の木戸先遺跡(印旛郡市:1991)から発見された縄文時代前期後半に属する垂飾(たれかざり:ペンダント)です。古墳時代には勾玉(まがたま)や棗玉(なつめだま)・小玉と呼ばれるペンダント・ネックレスに利用され、平城宮や藤原宮でも出土例が認められています。
 正倉院御物の中にも、薬の原料としての
琥珀(神経痛・喉痛・利尿剤・鎮咳などに効果が高いとされた)・琥珀製の双六子(今の碁石の形をした双六の駒)や数珠や魚形の腰飾り・紫檀木画槽琵琶(したんもくがそうのびわ:琥珀が埋め込まれた螺鈿(らでん)細工の琵琶)、螺鈿や琥珀で花文様を表現した鏡などが存在しています。

 熊谷市でも、塩地区の西原18号古墳より副葬品(
市指定文化財)として琥珀玉が出土しています。
 
琥珀の産地を同定するには、外吸収スペクトル法と呼ばれる科学分析法があります。これは、琥珀外領域での吸収スペクトル・パターンが指紋領域と呼ばれ、各産地で異なるパターンを持つ特性を利用したもので、日本では室賀照子氏によって提唱された方法です(室賀:1976)。
 今回、野原地区で採取された
琥珀と、西原18号墳出土の琥珀玉の外吸収スペクトルが一致すると面白いのですが・・・。機会があれば、分析委託に出してみようかと考えています。

 かの岩手県花巻出身の宮沢賢治(1896〜1933)は、石(鉱物)好きで、十一歳の頃より「石っこ賢さん」と呼ばれていたそうです。彼の文章・詩中には
琥珀も含めた多くの鉱物が登場します。
 最後に、その中の一つの詩を紹介します。


                   [遠く琥珀のいろなして]

           遠く
琥珀のいろなして、  春べと見えしこの原は、
           枯草をひたして雪げ水  さゞめきしげく弄るなり
 
           峰には
き雪けむり、  裾は柏のばやし、
           雪げの水はきらめきて  たゞひたすらにまろぶなり。 
江南町大字野原地区より採取した琥珀の写真 塩西原18号古墳出土琥珀玉の写真
熊谷市野原地内採取の琥珀 塩西原18号古墳出土琥珀
<参考引用文献>

(財)印旛郡市文化財センター 1991 「財団法人 印旛郡市文化財センター年報7」 『木戸先遺跡』
五味信吾 野代幸和 1994 「研究紀要10」『山梨県北巨摩郡大泉村甲ツ原遺跡出土
琥珀の産地同定(1)』山梨県立考古博物館・山梨県埋蔵文化財センター
室賀照子 「考古学と自然科学 第9号」『
外吸収スペクトルによる琥珀の産地分析』

記者コラム インターネットで読み解く!「第16回 恐竜の夢が地に足をつける時」 http://dandoweb.com/index.html
久慈琥珀「久慈琥珀博物館」http://www.kuji.co.jp/museum/