「これ馬じゃないかねー」という作業員さんの声に振り返ると、確かに馬形埴輪が横に倒れた格好で出土していました。「すごいね。胴体から足まで一頭分が揃っていそうだから、丁寧に進めてね」との調査員の声に、「こりゃ人の顔だよ」、「男かねえ、女かねえ」、こんな会話が続く中で作業が進められていくと、馬と馬を曳く人物の埴輪が続々と出土したのです。これは、女塚第1号墳に隣接した女塚第2号墳の墳丘部北面の形象埴輪群の中での話です。
さらに周りを掘ると、口先をやや細くし、口の両側に円形の切込みが入れられた動物埴輪が見つかりました。眼はやや細めに開けられ、後方には両耳が上向きに立っていました。耳の後ろには角が立っていた様子がうかがえます。鹿である可能性が高くなってきました。首をやや左にかしげ、お尻に至る流線型を見れば、まさしく、愛らしい鹿形埴輪であることがわかりました。
また別の位置からは、半月形に二つの穴があけられた埴輪片と、眼がどんぐり形の動物が出土しました。「こりゃ豚だよ」という意見が多かったのですが、口の端をよく見ると、両側の同じ部分に欠損した跡が見え、ここに牙が付いていたことが推察できました。また、首の後ろ側の中央にも縦に剥離した部分があり、たてがみの跡であることがわかり、この埴輪が興奮した猪形の埴輪であることが決定的になったのです。
猪は当時、身近な動物であったと思われ、古墳上での儀式を表現するために作られたと考えられています。出土後、鹿形埴輪と猪形埴輪は、共に修復され、大切に保管されています。
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