女塚第1号墳の周溝を掘っていた作業員さんが、土に埋まった丸くて「赤い丸石」のようなもので長靴に付いた泥を落としていました。落とし終わって「赤い丸石」に水をかけたところ、「赤い丸石」に刷毛(はけ)でつけた筋が見えたようです。
昼休みにこの話を作業員さんから聞いて「えー、それ丸い石じゃなくて埴輪の丸い部分じゃない?」と言って現場へ直行し、広く泥を除けてみると、なんと、外側の堤の南西隅で、欠けたところのない盾持武人埴輪が、墳丘を背にして斜めうつ伏せに倒れ、後頭部だけを見せている状況でした。そこで、急遽埴輪の出土状態の図や写真を撮ることになり、終ったのは夕方近くになってしまいました。
作業を終えて埴輪を取上げる時、一度仰向けに寝かせてみました。すると頭の方から見ていた作業員さんが「なんだか怒っているような顔だねー」と言うと、足元の方から見ていた作業員さんが「何言ってるの、笑っているよ」と反論し、真ん中で見ていた作業員さんは「いやー、りりしい顔してるよ」と、それぞれがまったく違う感想を言いました。そこでそれぞれ見うる場所を見る場所を変えてみると、「ほんとだー」「ほんとだー、笑った顔もしているよ」と、全員が納得しました。
この武人埴輪は三つの顔を持っていたのです。やや上向きの顔に杏仁形(きょうにんがた)の眼が切り込まれていますが、この切り込み角度が絶妙であり、これによって三つの顔が作り出されていたのです。
女塚第1号墳からは、他にも盾持武人埴輪が墳丘や周溝の各隅から出土していますが、顔つきが違ったり髪型が違ったりバラエティーに富んでいます。それぞれが、配された位置に役割があり、これらの埴輪は天空から来る邪気を、怖い顔と盾で防ぐ役を与えられていたのでしょうか。
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